"新しい"ご当地ラーメンその2

四つ葉

jacと並べて「新しいご当地系」と呼びたいのが埼玉県比企郡の四つ葉です。
おそろしくアクセスの悪い所にある店で、
あるラーメン情報サイトで最寄駅の項を見ると「無し」って書いてあったりするほど
すごい田舎の田んぼとガソリンスタンドしかない中に立地している。
でもけっこう行列してたから人気なのです。TRY2013で新人大賞2位だったかな?かなり宣伝効果のある。
というかこんな店を発見して評価したラーメンマニアの先生たちはすごいと思うが…


で、この立地にどんな必然性があるのか。目的があるのか。と言うと、
ここがポイントなんですが、要は店主の実家がここにあるからなんです。
店はでかい農家って感じの家屋の一角を使ってるんだけど、これがどうやら実家だそう。
さらにこの実家さんでは寿司屋を運営してます。


四つ葉は魚介清湯っていういまどきなラーメンを出すんだけど、いろんなレビューなどを見るに
この魚介は実家の寿司屋で仕入れている魚を使っているとのこと。
この時点でなんかすごいというか、寿司屋の実家で開店するメリットってこういうことなのかというか、
よくわからん。メニューにも普通に寿司が載ってるし。


さらにさらに、いまどきな四つ葉は醤油をよく立たせた味なのだが、
この醤油も近所の醤油蔵から仕入れた物らしい。
つまり四つ葉のラーメンは実家とご近所の味を活かしたものなのだ。
はい。これが私の言いたい「新しいご当地ラーメンその2」の所以です。


この地域でご当地ラーメンを作ろうと思ったら、よく知らないけど「下仁田ネギラーメン」とか思いつくよね。
そうじゃない。そういう村おこし的な発想ではないのだ。
若き店主にとっての「ご当地」とは比企郡ではなく彼のご近所さんまでのことなのだ。
札幌ラーメンだからカニ使うんじゃねえんだ。そんなものは古いんだ。
じつに挑戦的な発想だと思いました。


実際問題、いまどきの一般人の地元に対する愛着ってどれほどのものだろう?
正直僕は実家のある某市に対しては大した愛着を持っておらず、たぶん出身地の違う両親もそうで、
友人たちも生れはそこながら全国各地に散らばっている。
従兄弟だけは少しちがくて日ハムや地元の味覚をあちこち大いに宣伝してるが、
彼はけっこう人情に厚く物事の筋にこだわる男で珍しいタイプだと思う。


思うに市町村単位っていうのは直接市町村自体に愛着を持つには広すぎて、
たいがいは田舎で住む人にとってはつまらない土地だし、
まちおこし村おこし運動っていうのも市民一人一人の愛着をもたらすような作用は薄いものが多いのだろう。
下仁田ネギラーメンなんて別に食べたくねーし。(下仁田ネギを否定するわけではありません)
地域によってはご近所さんとの連帯意識すらほぼ無いに等しいので、それを飛び越えたまちに対する愛着など
湧きようもない。はっきり言って。


というわけで、広い意味での地元にきっぱりさよならして、
本当に自分が愛着を持てる範囲、つまり実家とおとなりさんの持ついいものを活かそうとした四つ葉の店主は、
すごく正直、というより真摯だと思うのである。
例えば北海道の人が「北海道のカニサイコー」と言うような薄っぺらい地元愛より遥かにリアルだと。
(実際道民はカニサイコーとか言いませんが)


仕事では基本嘘も方便なんですが、学生時代にいろーんな先生からわかってもないこと偉そうに言うなと怒られたの思い出すにつけ、
この田舎で頑張ってるラーメン屋の店主さんはよく分かってるんだなと感心する物です。