Portfolio-15-臨時…2009C硝子国際設計競技

先日後輩のC、Wと3人で提出したコンペ。
課題は「まちの寄り合い所」というものでした。



『寄り合い所とは単に人が集まる場所ではなく、まちの営みや個性をすべて映し出すものであって欲しい。
日本の農村では農業者はもちろん蛙や水鳥、虫や魚、植物や微生物が関係し合いながらまちを支えている。
この寄り合い所は溜池としての機能を持つことで人の営みと自然のリズムを水位の変化に映し出し、様々な大きさの円形の池ができたり消えたりしながら全ての生き物が同時に寄り合う場所を提供する。人、動物、植物、気候、産業—全てが寄り合う場所の提案。』ボード本文より。


農業用水の溜池の形をいじくって寄り合い所にしようというアイディアです。
まず課題「まちの寄り合い所」の「まち」とは何でしょうか。
それは必ずしも「都市」と同義ではないでしょう。
ここではある程度の人の集合、ある程度の経済的な位置付けを持ち、人の認識上の位置付けや社会的意味付けを持った場所、同時に物理的な範囲を基本とした曖昧な単位であると捉えています。


次に「寄り合い所」とは何でしょうか。
課題によれば、日本の都市政策においてコミュニティ単位を仮定し、地域社会関係の再生とそこから動き出させる居住環境の改善に寄与するようにつくられた画一的なコミセン…ではないとのことです。
なんとなく、古くから「むら」の寄り合いに使われて来たお寺なんかが想像されます。
これはごく大まかに言えば自然発生的なものだと言えるでしょう。(江戸幕府が事後的にこれを国家統治に利用したという面はありますが)
しかし現代においてこの自然発生的な寄り合い所がそのまま成立することは難しいと考えます。
成立条件として、コミュニティの成員の生業における同質性や相互関係、コミュニティ全体の利害に関係していてかつ集団で解決しないといけない事柄が必要でしょう。
生活スタイルの多様化、自動車とICTの普及による主体(住民)の属地性の喪失が背景としてあります。


そんな中でも場所に根ざした協同の関係性を生もうという時に、
地域の人々が寄り合う根拠とその場所をどう作っていくか。それを課題に設定します。



「まち」を少し広めに定義したので、コンペでの競争についての戦略的視点から場所を農村に設定します。
都市部での提案が多そうに思われたためすき間を狙っていきます。


そうした場所ではどんな寄り合いの可能性があるでしょうか。


ひとつめ、人間にフォーカスした際には単純に居て心地のいい魅力的な場所をつくるということです。
現代の農村には農民以外の人間も住んでいる。言うなれば多様な価値観を持った人間の集合がそこにはあります。
そうした際に力を持つのは結局の所誰もが楽しい、心地よいと思える「空間」であると考えます。
そしてただの魅力的な自然環境を創出するのではなく、「半人工的」な場所を考えます。
そもそも農村の環境というのは半人工的なものです。その方向に沿うように、同時に少し逸脱するように新たに半人工の環境をセットします。


ふたつめ、人間のみではなく地域の自然相と産業に着目します。
ある地域の空間を規定するものとして、先の2者はどうしても重要であり、特に一次産業を基幹とする場合は相互に関係性を持った物です。
こうして「寄り合い」の主体が少し広がり、「まちの住人」から「まちを支える、関係する全ての物」となっています。


こうした考え方に立ち、具体的に寄り合い所を考えていきます。



手法から言えば、農業溜池を図のような形に作り替えることで寄り合い所とします。
農業溜池は季節や天候、農業の年間サイクルによってその水位を変化させます。
また中〜大型のたいていの動植物は水辺に集まる性質を持っています。
つまり産業と自然環境のリズムが可視化される場所として捉えられます。


この農業溜池をどのように作り替えるか。
「寄り合い」の概念の表現、水位の変化、全ての動植物の集まる場、人間が魅力的に感じる半人口の場、
といった要素を一挙に解決する方法として、フラクタル幾何学を用いることにしました。


上図の円形のガスケットはフラクタル図形の一種で、大小無限の円形を内包しています。
円卓に象徴されるように、円形は複数の個体が互いに向き合って近づく、ひいては寄り合うことを暗示する図形です。
これが大小さまざまなスケールを持って固まっている。つまり、アリからネズミ、人間、馬、樹木まで、理論上は全ての生物が向き合うためにちょうどいい大きさの円形の池が用意されることになります。


さらにこれが水位の変化によって消えたり現れたりします。
水位のサイクルによって生物の寄り合い方が規定される形になるわけです。
人間のアクティビティも多様に変化することでしょう。



長くなりましたが、以上が提案でした。
楽しかったです。


アメリカ都市計画とコミュニティ理念 (1977年)

アメリカ都市計画とコミュニティ理念 (1977年)

怪しくておもしろい本。